基本的な考え方

点検・整備の必要性

車検の検査は最低限の安全性能だけ

 以上の説明で車検というものの概略が理解できたでしょうか。前3項の説明では、オイルの交換やプラグの点検といった、普段車にちょっとでも関心のある方ならば当然気にかけているような項目に全く触れられていないことに驚かれたのではないでしょうか。しかし「車検に通るだけ」が目標であるならば、オイルは規定量入っていさえすれば、いくら真っ黒になっていようと関係がないのです。これらは車に安全に長く乗ろうとするならば、当然気にかけておくべきことなのですが、こと「車検」に合格するということだけに関していえば、これまでしつこく言っているとおり、検査時点でブレーキ、スピードメーター、灯火類がきちんと動作していて、直進安定性がありさえすればよいのです。

車に安全に長く乗るためには、車検に受かっただけで安心していてはいけない

 このことが分かると、車を安全に長く維持していくためには、ただ車検に受かるだけではだめで、安全に長く乗るための点検・整備がプラスして必要であることに気がつくはずです。それがオイル交換や、プラグの手入れなど我々が日常気をつけて行っていることなのです。
 点検・整備というと非常に難しいこけおどしのように聞こえてしまいますが、しかし、これらは業者に任せてしまわなければならないほど難しい内容のものはほとんどありません。普段正常に車に乗れているということだけで、日常の点検のかなりの部分が終わっています。そして普段オイル交換などの車のメンテナンスに気を遣っている人であれば、ユーザー車検をするに当たっての特別な項目は数えるほどしかありません。その内容については後でいくらか述べたいと思いますが、それほど恐れるほどのものではありません。そして自分でできなければ、その部分だけを専門家である業者に頼めばよいのです。

業者の「ユーザー車検代行」?

 さて、業者のユーザー車検代行についてです。これは「ユーザーが車検に持って行くのを業者が代行する」という商売です。あまり車のことに関心を持たないユーザーがこれを利用した場合どうなるかは、先ほどまでの説明ですぐに分かるでしょう。本人は、もちろん車のことには無関心で、車検に受かれば以後2年間は安全だと思っています。業者は、安く車検に通ることをアピールしているので、車検に通すための最低限の項目しか点検しません。その結果、車検には受かりますが、その後安全性に問題が出るか、車が壊れやすくなるか、ろくなことにはなりません。そして代行手数料だけはしっかりとられるのです。
 このような業者によるユーザー車検の代行というあやしげな商売の危険性が一般に知れ渡ってきたからでしょうか。最近ではユーザー車検という言葉をあまり聞かなくなりました。しかし、従来の車検費用に対してかなり安価でユーザー車検代行が対抗したために、業界でもそれに対応して車検費用の安価さをアピールする商品を開発してきました。これが「ユーザー車検ではありません。」と注記した、整備内容を相談しながら決めるという車検システムです。
 しかし我々は、費用を安くするために、通常のコミコミ車検の内容から何が省かれるのかということを考えてみる必要があります。何事に限らず業者は、「安くしたい」というと、作業の質を改善しないで、まず材料の質を落とします。それから少々必要でも、作業が面倒なことから、「安くするために」という大義名分のもとに削っていきます。そして何か不具合があっても「それは少々のお金をケチったのだからしょうがない」というのです。

業者の発想からユーザー主体の発想へ

 しかし本当にそうでしょうか。業者はユーザーの立場よりも人件費を確保することを第一に考えているからこういう発想しかできないのです。ちょっと考えてみればすぐ分かるように、費用の中で一番高いのは部品代などではなく、人件費です。この人件費をどこに回すかという発想がないために、業者のような考えでコストを削られると、安価な部品をケチられ、面倒くさい作業も削られて、間違いなく質だけが大幅に低下し、費用の方はそれほどには減りません。
 このことは家を建てたり増改築したりする時にも当てはまる、注意しておかなければならないことなのですが、そのようなことがこの安価な車検の場合にも起こるはずだということです。実際にどこの部分を削られて安価になっているのかを検討してみる必要があるでしょう。
 このホームページをここまで読んできた人は、自分でできるようなことなら少々自分でしてもよいから、その分を安くしたいと思っているのではないでしょうか。一番安い車検の費用の明細を見てください。ユーザー車検で最低限必要となる費用(検査代+自賠責保険代+自動車重量税)の他に、たぶん24ヶ月点検+車検代行料+テスター代が計上されているはずです。本稿では詳しく説明しませんが、ユーザー車検関係の点検・整備の記事を読んでいただければ分かるように、点検などはちょっと車をいじったことがある方なら、ほとんどの部分簡単に自分でできる内容です。自分で車検に持って行けば代行料数千円もいりません。テスター料も業者が車検場で不合格を多く出すと指導されるから、事前にテスターで不良箇所を調整しておくためのものなので、ユーザーが車検をする場合、本番の車検で国が責任を持って検査をしてくれますから、予備検査の必要などは全くありません。もし不良が見つかったら、その時初めてテスター場に持って行って調整してもらえばすむことです。
 このように安価な車検では、ユーザーでも簡単にできる事柄への費用がしっかりと上乗せされている反面、たとえば、ブレーキオイルの交換といった、ユーザーには割と難しい内容は省かれています。これらは割と面倒くさい割に、費用をそれほど請求することができないのです。たとえブレーキオイルを4年間換えなかったとしても、たぶん実用上は全く差し支えないでしょう。しかし、オイルは必ず劣化するものなので、毎回これを省くというのはいかがなものでしょうか。ちょっと問題がありはしないでしょうか。
 「それほどこだわるのならオプションですれば」という声が聞こえてきそうです。しかしそうすると、業者に任せる以上、従来のお任せ車検と同じだけの費用がかかります。また「オプションで」「納得ずくで」というのは従来より少しは進歩しているのかもしれませんが、ユーザーが車に無関心である場合、説明はどうとでもできるので、結局は業者の思いのままに丸め込まれてしまい、大差のないことになります。 
 それでは発想を変えて、ユーザーに優しい車検をするためにはどうすればよいのでしょうか。そのためには、自分でできることはなるべく自分でして、自分でできない難しいことだけを業者に任せればよいのです。検査の中で比較的難しいのはドラムブレーキのブレーキシューの厚さの確認ですが、それが難しければブレーキオイルを交換するついでにやってもらえばよいのです。私はついでにハンドブレーキやブレーキ・クラッチの遊びの調整も「やっといてくれ」といいます。それだけ頼んでも良心的な業者なら、それほど費用を取られないはずです。
 業者は面倒くさい割に利益が出ないので、いやがるかもしれません。実際に私がデリカを車検に出している業者は、車検のための部分整備はしないと最初は言っていました。それで、車検費用以外のメリットが大きいので、デリカは車検整備一式をお願いし、テスター代にも目をつぶって、検査場にだけ自分で持って行って、せこく検査代行費用のみを節約したこともありました。

手助けをしてくれる信頼のおける業者を見つけよう

 しかし、このようにいやがる業者ばかりではありません。別の車は別の信頼のおけるディーラーで、部分整備をしてもらっています。何をするにしても、このようにユーザーが自分で考え行動しだしたとき、それを理解し、サポートしてくれる業者の存在は大きいです。そのような業者を見つけるようアンテナを伸ばし、目先のちょっとした安さに惑わされず、実力のある業者を大切にしたいものです。

後から整備依頼という手も

 ちなみに、検査の合否に関係しない整備、たとえばブレーキオイルなどは、車検を通してしまってから、後で換えてもらうという手もあります。業者が、車検のための部分整備を快く思わないのは、こみこみ車検の手数料を浸食されるのを嫌がっているだけですから、懇意な業者なら、こんな一般整備の仕事を拒むところもないでしょう。
 私はこういうことをよくやるので、最初「車検のための部分整備はしない」と言っていた業者も、今では普通に頼んだことを快くやってくれるようになっています。

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